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ふたりぼっち

「君は物?それとも人?」
彼女はそう尋ねた。
「いや…俺は、人間だと思います…」
俺はそう答えた。
「そう」
彼女はうなずいて、微笑んだ。
そうして、背を向けて歩いて行く。
「ねぇ、物と人の違いって、なんだと思う?」
その言葉を残して。
そして次の日。
俺はまた、彼女の前に立っている。
「ねぇ、物と人の違いって、なんだと思う?」
彼女は問いを繰り返した。
「………」
俺は何も言わなかった。
彼女の求める答えなど、きっと俺の中には無かったから。
「物は何か言う?」
彼女は訊く。
「えーと…芸術作品なんかはそれなりに雄弁ではないかと」
「そうだね。それは人?」
俺が自分なりの答えを導くと、彼女は重ねて訊いてくる。
「人、ではない。全然違う」
「何が違うの?」
「生きてない」
これは確かだと思った。
だけど。
「本当に?」
彼女は言った。
「その人その『もの』を表す、または一瞬を切り取った形である『芸術』は、本当に人間じゃない?」
彼女はさらに言う。
「私にとって、自己を主張し、自らの存在を他に理解させようとするモノは人。自己が無く、自らの存在をただ在るがままに空間に委ね、自らの存在を理解するものを待つモノを物だと思っている」
彼女の、彼女の定義でなくとも、「生きていない」人間というモノは確かにあるし、論じられてもいる。
だけど、俺はまだ、彼女の真意を掴めないでいた。
…だが、彼女は最初に、俺になんと尋ねたか?
「君は物?それとも人?」
彼女は繰り返した。
「…俺が物だとしたら?」
俺は訊く。
彼女は応える。
「そうしたら、私があなたを理解してあげる。君の欠片を集めてあげる。君はただ、待っていればいい。受け入れればいい」
「俺は―」
「君は、『生きている』人が作ったモノよりも人間に遠い人。だから私は…君を愛してあげる」
なんて押し付けがましい愛情。
だけど、俺は。
そうやって愛されるのを待っていたんじゃないか?
俺みたいなやつでも受け入れてくれる人を。
俺にしか受け入れられない人を。
世界でたったの二人ぼっちになるために。

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by unfairy-tale | 2006-11-26 19:59 | Comments(0)
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